上手くなる方法


 ゴルフボールを打つという動作には特別な事は何も無い。なので、基本的スイングというものは驚くほどシンプルなものなのである。トッププロのスイングを分析すると、特別な事は何もやっていないということに気が付いて唖然とするものだが、それは当然の事なのである。
 ゴルフボールを打つのが難しいと感じる理由は一つしかない。ボールとクラブがあまりにも小さいのにクラブはあまりにも速く動かされるからである。だれしも蝿も止まりそうなくらいゆっくりクラブを振ればボールを正確にヒットさせる事は出来る。しかしそれではゴルフをする事は出来ない。ボールを遠くに飛ばすためにはクラブヘッドにある程度のスピードを与えなければならないがそうすると文字通り加速度的にナイスショットの確率は落ちて行く。
 クラブヘッドを加速するためにはより多くの全身の筋肉をスイングに参加させる必要が有る。そのため、スイングの動きを毎回同じ様に「再現」する事が難しくなるのである。クラブが速く動けば動くほど、慣性が働きプレーヤーがクラブをコントロールし切れなくなる場面も多くなる。このような問題が有るために、特に初心者はゴルフクラブのコントロールを失い易くなるのである。
 これを解決するには、はっきり言って練習するしかない。クラブを振って、体の動きを筋肉で記憶させ、クラブの動きに「慣れ」るしかない。残念ながらそれしかないのである。
 しかしながら、ここで重要なのは「クラブを振る」という動作であるから、必ずしもボールを打つ必要はない。逆に、ボールを打ってボールの行方に囚われる事はスイング形成の上でデメリットとなる事も多い。初心者のうちは素振りを多く行うべきである(ボール勿体無いしね)。
 クラブを振れば振るほど、スイングの再現性は高まり、クラブの動きを体感できるようになる。これはどんな動作でも同じ事であって、特にゴルフスイングが特別な訳ではない。歩くのだって、走るのだって幼少時には上手く出来なかった事が成長に従って次第に上手くなる(究極的には陸上競技にまで発展する訳だ)。ゴルフスイングもまったく同じである。
 ところで、多くの人は自分が「なかなか上手くならないなぁ」と思っていると思うが、それは大きな勘違いである。例えば、ある人がゴルフを始めて10年だったとする。平均練習回数は3週間に1回100球程度。3月に1回ラウンドというペースだったととする。その人の平均スコアが100前後だったとする。皆さんはこれを見てどう思うだろうか?
 はっきり言えばこの人は天才と言っても良い。
 例えば、あなたが椅子に座らされ、3週間に1回1キロ程度しか歩けないとする。そして、3月1回しか走る事を許されなかったとする。10年後、果たしてあなたは50mを8秒で走れるだろうか?
 例えが極端だが、人間の運動というのはすべからくこのような「慣れ」と筋肉の発達が支配するものなのである。センスあるいは理論はその先の話だ。「うまくならないなぁ」というのであれば少なくとも毎日練習をし、月に2回はラウンドに出かけて、その上でスコアが伸びない事を嘆くべきである(このようなペースでゴルフをすれば、余程その人が間違ったスイングをしていない限り3年も経てば絶対にシングルになっていると断言出来るが)。
 しかし、上達の早い遅いというのは確実に存在する。同じように練習し、同じコーチに学んでも上達速度に圧倒的な差が付く事が有る。なぜだろうか?
 言っておくが断じて才能の差ではない。才能の差は最終的な「上手さ」の限界(これもスコアが65か63かというレベルの話になる)には現れるかもしれないが、上達の速度にはほとんど現れない。
 ゴルフが早く上手くなった人には、共通する特徴がある。
 それは、愚直であると言う事である。
 最初に教わったボールの打ち方を金箇条として、ひたすら同じ事を繰り返す。そのつまらない練習を延々と繰り返すことが、実は上達の早道である。それが出来るかどうかだけが上達の速度を分かつのである。
 変えてはいけない。工夫してはいけない。基本に忠実に、ひたすらに同じ事を繰り返す。この事が如何に困難であるかはやってみなければ分からない。人並みに脳みそが付いているならば、うまく打てなければつい工夫したくなるものだからである。しかしながら、素人が如何に頭を使ったとしても、それがスイングを改善してくれる事は絶対にないのである。
 例えば、基本に忠実にスイングしたのにシャンクが出たとする。何発打ってもシャンクが出てしまうとする。ここで、シャンクが出ない様に試行錯誤してしまうプレーヤーは、上手くならない。たとえそのシャンクが止まったとしてもそこで付いてしまった癖を抜くには逆に膨大な手間と時間が掛かるからである。
 そこで、自分のスイングを信じて、自然にシャンクが止まるまでシャンクを打ち続けたプレーヤーは、結局最短距離を行く事になるのである。それはもう練習場のカードが空になるまでシャンクを打つ必要が有るかもしれない。しかしながら、その辛さに耐え抜けば、そのプレーヤーは必ず上達する。
 スイング理論本を片っ端から読み、いろんな事を試してしまう僕のような(笑)プレーヤーはなかなか上手くならない。結局は回り道をしている事にしかならないのである。
 スイング理論を参考にする時の注意点を1つ言っておく。
 スイング理論を参考にするならば、少なくともその理論で完璧にボールを打てるようになるまではその理論だけを参考にしてボールを打たなければならない。それならば確実に理論はプレーヤーの助けになってくれる。しかし、一部をつまみ食いしたり、未だ物にならないうちに他の理論に乗り換えたりする事は、上達のためにはまったく助けにならないばかりかはっきり言って有害である。
 なぜなら、スイングはアドレスからフィニッシュまでが繋がった一つの動作だからである。一つの動作は次の動作に分かちがたく繋がっているものなのであって、そこだけ抜き出す事など出来る筈も無いのである。同じ理由でプロのスイング写真を参考にする場合はたった一人のスイングのみをひたすら参考にすべきである。ヴィジェイのアドレス、ミケルソンのトップ、タイガーのインパクトを組み合わせてスイングのパズルはけして組み上がらないのである。余談だが、ゴルフ雑誌のレッスン特集記事。毎週毎月入れ替わり立ち代わり違うプロが登場して、違う事を言う。あれほど無責任なものはないので絶対に参考にしてはいけない。
 上達したければ、確かなスイング理論のもと、不断の練習を行うしかない。僕はそう確信する(最近人に言えるほど練習してないけどね)。


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