真っ直ぐ立てていますか?

  ハンディキャップ一桁のプレーヤーと、いわゆるアベレージゴルファーを遠目で見分ける簡単な方法がある。

  アドレスする前に、ボールの後方に立って飛球線を確認するかどうかを見れば良い。確認したならそれはシングルさん。しなければアベレージさんである。

  本来、これは逆であるべきなのだ。なぜなら、ゴルフ歴の長いシングルさんは、そんな手順を踏まなくても狙った方向に向けて立つ事くらい出来るからである。しかし、シングルさんはその手間を惜しまない。絶対に惜しまない。何故か、惜しんでいたのではシングルさんには成れないと知っているからである。

  狙った方向に立つ。端的に言えばこれだけの事が如何に難しい事か。この事実を知るプレーヤーは、実は意外に少数派である。それは、先程の「アドレスする前にボールの後ろから方向を確認する」という一手順を実行しているプレーヤーが実に少ないということで分かるだろう。相当なレベルのプレーヤーでも、ボールにすたすたと歩み寄り、いきなり構えてしまうのである。

  はっきり言えば、ほとんどの場合それでもボールはちゃんと狙った方向に打てる。ゴルフ歴が長ければ、80%くらいの確率でちゃんと狙った方向に構える事は出来ている筈だ。故に、ほとんどのゴルファーはこの一手間を惜しむ。そして、永遠にシングルさんに進化する事が出来ずに終わる。

  80%はちゃんと立てる。これは事実だ。しかし、逆に言えば20%ものショットが狙った方向に立てていない、ということなのである。この20%を「そんくらい」と言っていたのではシングルさんには絶対になれない。狙った方向に立てていない=狙った方向に打てない。しかも、ナイスショットをしても、絶対に狙った方向に飛ばない、ということなのだ。何もしない内から20%のミスショットが約束されてしまう。このことの恐ろしさが分からないというなら、ゴルフをやる資格はないだろうね。

  逆に言えば、単純に例の一手間を掛けるだけで、約束された20%のミスショットがかなりの確率で撲滅出来るということなのである。こんな楽な話は無い。20%が5%に減ったなら、ストロークは10打くらい違うのではないだろうか。

  さて、私は今、20%が5%になると言った。そう。0%にはならないのである。

  慎重に方向を定め、真っ直ぐ立ったつもりが、僅かに違う方向を向いてしまう。この、些か信じ難い事態が起こる理由は偏に目の錯覚にある。遠景の傾き、ティグラウンドの形、傾斜、更に言えば、体調不良などでも人間の目という物は容易に狂う。そして、プレーヤーは自分でも信じられない様な方向を向き、そっちの方にボールを打ってしまうのである。

  コース設計家の中にはこの目の錯覚をより積極的に誘ってプレーヤーを惑わす事がある。コースに行ったら、ティグラウンドのフロントエッジを見てみると良い。素直にフェアウェイセンターと正対していることが非常に少ない事が分かるだろう。他にも、フェアウェイに木を植えて視界を狭くし、真っ直ぐ構え難くするなどということもある。これにまんまと嵌まっている様では、コース設計家に快哉を叫ばせてしまう事になるだろう。

  プロの中には、アドレスをとったらキャディに後方から向いている向きを確かめさせることもある。プロでさえだ。それほど自分が「向いているはず」の方向というのは信用ならないのである。

  持ち球に応じて、アドレスの方向は変って来て当たり前である。ボールと目標を結んだ線とは別に、打つべきショットのイメージ線(飛球線)を脳裏に描き、それから飛球線に応じた仮の目標を設定し、更にそこに向ってラインを描く。それに向ってスタンスを取るべきだ。この際、目標ラインと平行になるのはあくまで肩のラインであるべきである。

  ボールの後方から目標へのラインを確かめる訳だが、この時、漠然とラインを思い描いたのでは、ボールへ近付く際にイメージを失ってしまいかねない。そうならない様に、ボールの前後に何か目印を設定すると良い。枯れた芝生や、小枝など何かあるはずだ。自分で運んできて置いたのではルール違反になってしまうので注意。構えた時に視界に入る範囲に目印を設定した方が構え易い。この時、目印に沿って構えたのに、なんだか向きがおかしい様に感じたなら、必ずスタンスを外してもう一度ボールの後方から目印の信頼性を確認した方が良い。疑いを抱いた状態でボールを打ったのでは良いショットは絶対に打てない。

  最近、パッティングの際に目標に向けよと、ボールに矢印が引いてある物がある。あれはなかなか便利だが、ボールをきちんと真上から見ないと向きが違って見える可能性がある。パッティングの際には、近いからと言って更に真っ直ぐ立つ事が疎かになる物だが、実はパッティングこそ目標に向けて正しく立つ事が難しい物なのである。より繊細に方向を吟味するべきなのだ。

  目標方向に正しく立つには、やはり練習が必要である。これは何もボールを打たなくても出来る。暇な時にでも、遠くの目標に向って一連の手順を踏んで正しく立てるように練習すれば良い。側溝など、平行になっているラインを見付けて立ってみるのも役に立つ。練習場で何百発もボールを打つ際に、いちいち後ろから方向を確認するのはかったるい(本当はした方が良いが)というのなら、せめて仕上げの十発くらいは、本番さながらに一連のルーティンを行なってボールを打った方が良い。

  恐ろしい事実を告げよう。私の見る限り、アベレージゴルファーの放つミスショットの、実に5割が「真っ直ぐ立てていない」事によるミスショットである。ということは、真っ直ぐ立てるように練習するだけで半分近くのミスショットが撲滅し得るという事なのである。アドレスの際、後方から目標を確かめるだけでかなりの効果がある筈だ。プロやシングルさん達があれほどまでに方向に気を使っているという事実を、自分がアベレージゴルファーだと考えるプレーヤーは良く考える必要が在るだろう。


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