アプローチ芸術論

  私は今現在、コースで使い分けるアプローチの技術を、5つ持っている。

  ランニング、ピッチ&ラン、ピッチング、ロブ、ブレーキングである。

  5つと聞くと多い様に聞こえるかもしれないが、普通のプロであればこれにプラスしてあと5つほどの技がプラスできる筈だし、丸山茂樹プロは21種類のアプローチを使い分けると聞いたことがある。アプローチの技術はそれ程に奥が深い。

  アベレージ・アマチュアのパーオン率は12%程度ではないだろうか。つまり18Hにつき2H程度である。ここから導き出される答えは、グリーン回りからのアプローチ技術がスコアを決定するということであろう。これが分かっているゴルファーは、非常に短期間にスコアを伸ばすことが出来る。

  しかるに、世のアマチュアゴルファーは鬼のようにアプローチが下手である。私は職業柄、数限りないくらいのアマチュアゴルファーを目にしてきたが、他のショットは上手いのに、アプローチだけがどうにもならんほど下手糞だというゴルファーはなんぼでもいた反面、その逆を見た記憶が無い。もちろん、他のショットは普通なのに、アプローチだけは異常に上手いハンディキャップ2のプレーヤーという例はあるが、これはあまりにも高いレベルでの話である。

  アマチュアゴルファーはなぜアプローチが下手なのか。簡単である。練習しないからだ。

  練習場でアプローチの練習をしている人は、実に少ない。これは仕方が無い面もあって、1球20円もする東京の練習場でアプローチの練習をする気になれないというのは、まぁ、分からないでもない。アプローチをちまちまやるよりドライバーを振り回した方が確かに気分は良い。しかしながら、これではいつまでたっても上手くはならん。

  アプローチを練習する方法はある。まず、コースに行く時、2時間ほど早く出る。そしてフロントかマスター室に「アプローチ練習がしたいので何処か適当な場所は無いか」と聞くのだ。コースには無意味にきれいな芝生が植わっている場所が必ずある。まず駄目とは言われ無いはずだ(ただし無許可でやらない様に!)。もちろん、初めからアプローチ練習場のあるコースならそれに越した事は無い。プレーが終った後でももちろんいいだろう。

  しかしながら、ハンディキャップ一桁のプレーヤーが、プレーが終った後、アプローチとパターの練習を日が暮れるまでやっている光景はよく目にするが、アベレージゴルファーが同じ事をやっているのは見た事が無い。

  ドライバーショットとアプローチはどちらが難しいのか。これは文句なくドライバーの方が難しいと断言出来よう。何となれば、スイングに参加させる筋肉運動量と、クラブの移動範囲と速度が、ドライバーの方が大きいからである。では、ドライバーの方を多く練習すべきなのか?

  一概にそうとは言えない。これは、ドライバーショットよりもアプローチの方が高い精度を要求されるからである。方向性、高さはもとより、スピン量に関係するボールとクラブの接触面のコントロール、クラブの軌道、振り幅もシビアに管理せねばならない。しかも、ほぼ一つのスイングを練習すれば良いドライバーショットと違って、アプローチは様々な状況に対応する打ち方を練習せねばならないのだ。

  故に理想的にはドライバーショットもアプローチも同じくらい練習すべきなのである。しかしながら、それが時間的、体力的な問題で出来ないというのであれば、これはアプローチを優先して練習すべきだろう。なぜなら、アプローチの方が簡単だからだ。短い練習時間しか取れない場合、簡単なものを集中して練習した方が、効率が良いのは言うまでもない。

  グリーン周りからのアプローチショットで重要なことは、優先順位をはっきりさせることである。これを無視すると、如何なる技術があっても上手いアプローチは出来ない。列記してみよう。

@     グリーンに乗せる。

A     パットが易しくなる方向に乗せる。

B     出来るだけ近くに寄せる。

C     カップインさせる。

この順番で優先順位を付けるのである。

  どういう事かと言うと、@が確実にクリア出来る自信が無いのなら、Aを考えてはいけないということなのだ。グリーンに乗せることに自信が無いのなら、グリーンのどこに乗せるかなどは考えてはいけないのである。

  これを間違えると、グリーンに乗せることもおぼつかないのに、気持ちはカップインを狙っている、というアンバランスなことに陥り易くなる。そうするとどうなるかというと、ボールをしっかり打つことも出来ないのに加減しようとする訳であるから、上手く行くはずが無いのである。

  これはなにも初心者に限ったことではない。かなりの上級者でも、自分の技術を過信して、優先順位を無視してしまうことがある。こと、アプローチに限っては、冒険しては絶対に駄目なのだ。石橋を叩いて渡るくらいの心構えが欲しい。何故かと言えば、アプローチは、既にショットのミスをフォローする行為だからである。ミスの上にミスを重ねることは愚行以外の何者でも無い。

  ボールのライを見、距離、ライン、ミスしてしまった時に何が起こるかまで検討し、打つべきアプローチを決定する。氷のような冷静さを持って、全ての状況を掌で転がしてこそ、最善のアプローチショットを成功させることが出来る。

  初心者は転がしから覚えるべきだ、という意見がある。私はこれに賛成しない。ロフトの立ったクラブ、ないしロフトを立ててのランニングアプローチは確かに効果的なアプローチショットである。しかしながらそれは、ゴルフショット的には特殊技術に分類されるべきショットなのである。初心者がいきなり特殊技術を身に付けようとすることはゴルフをわざわざ難しくしようとしている様な物だ。

  アプローチの基本は、サンドウェッジでのピッチエンドランである。アイアンショットの基本が出来ていれば、このショットが一番簡単だ。小さなアイアンショットを打てば良いのだから。ピッチエンドランがきちんと打てるように練習しておけば、アイアンのフルショットにも必ずや良い影響を齎すだろう。

  アプローチが上手いプレーヤーには共通点がある。それは、弾道イメージを描くのが上手いということだ。

  最低限、ボールの落とし所がイメージできなければアプローチは絶対に成功しない。出来れば、これに球の高さのイメージが欲しい。上級者は、これにプラスしてボールのスピン、バウンドの高さまでをイメージする。最終的には、打つ前に打つべきショットの予想映像が脳裏で上映出来るくらいにならなければならない。

  弾道イメージを描けるようになるための第一歩は、自分が打ったアプローチでボールがどれくらいランするかを知る事である。ピッチエンドランで、キャリーしたボールがどれくらいランするかが分からなければ、落とし所を設定できない。例えば、平らなグリーンで2mランする事が分かれば、ボールを2m手前に落せばいいのである。

  本当にアプローチが上手いプレーヤーは、クラブフェースの使い方が上手い。フェースに、どのようにボールが接触するかで、ボールに与えられるスピンの具合が変ってくるのだ。インパクトの瞬間、ボールがクラブフェースにどんな風に当たるか、どのように擦れるか、どのようにボールが潰れ、どの角度に打ち出されるかをイメージする。それが出来れば使えるアプローチの幅が断然広がってくる筈だ。

  最後に、クラブの事を考えてみよう。私が50y以下の距離でアプローチに使うクラブは、ロフト60度のサンドウェッジである。これでランニングを含む全てのアプローチを打ち分ける。これは、難しい様に見えて、実はそれ程難しい技術ではない。むしろ複数のクラブを使い分ける方が難しい。何種類ものクラブを習熟しなければならなくなるからである。

  アプローチに使うクラブは、絶対に「慣れた」クラブである必要が在る。それこそ、mm単位でボールをコントロールしたいからだ。自分の箸よりも慣れたクラブでなければそんなことは不可能だろう。プロは、他のクラブには無頓着でも、アプローチに使うクラブだけは非常に神経質にスペックを管理する物だ。スペックを管理できないアマチュアゴルファーは、アプローチに使うクラブを容易に替えるべきではない。

  アプローチの練習は楽しい。それは、練習すれば目に見えて上手くなるからである。コースでは使えないような、スーパーロブショットや超低弾道アプローチを遊びで練習しておくと、それが思いも掛けないところで役に立つ事もある。短いクラブを少ない振り幅と力で振るアプローチ練習は、クラブの動きを把握するのに最適である。弾道のイメージも作り易い。これは、結果的にはフルショットにも反映されてくるのである。

  アプローチはゴルフの基本である。そのことが理解出来たプレーヤーは必ず上手くなる。逆に言えば、そのことが分からないプレーヤーは一生上手くならない。どんなにドライバーが飛んでも、練習場でちまちまアプローチを練習しているプレーヤーを笑っているようでは一生ダッファーからは脱出できないことを知るべきだろう。


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